糠床ブログ

不定期

マリオ・マッシモ・デ・カーロという男  その1

マリオ・マッシモ・デ・カーロ、この名前で検索しても日本語ではこの男の犯した罪はほぼ出てこない

2007年、NYの大手古書商MartayanLanが50万ドルで購入した本がドイツの美術史家 Horst Breadekamp率いる学術チームに真贋鑑定を依頼した

その本はSidereusNuncius(星界からの報告)、ガリレオ・ガリレイが月と木星を観察して天動説を確信した彼が書き表した最初の本で歴史的重要さ、本の構成の美しさから世界でもトップクラスの高額古書である

現在は100冊ほどが残るだけであり、その多くは著名な図書館のバックヤードで眠っている、しかも買い上げた本はガリレオ直筆の水彩画による月の挿絵がある世界に二つとない代物で世に出れば1000万ドルはくだらない

鑑定チームの出した結論は本物

ただ世紀の大発見の後は不気味な静けさが5年続くことになる

2011年、ジョージア州立大学の歴史家Nick WildingがHorstにメールを送る、星界からの報告は偽物だと 

2012年、ページをちぎっての資料分析の結果、紙は20世紀製だと判明した

古書商が買った本はアルゼンチンで見つかったガリレオパトロン貴族の私設図書館の蔵書だという触れ込みだった、持ち込んだ人間の一人が冒頭で出したマリオ・マッシモ・デ・カーロである

この男は2011年4月にイタリア文化省特別顧問、同年6月にはナポリ最古の図書館ジロラミーニ図書館の館長となっていた、自分が館長になると5人のキュレーターに命じ書物のラベルや貸出票を剥がし本を1階の広間に固めさせた

そしてワゴン車で数千冊もの古書を持ち出したそのうちの400冊強をドイツのオークショニアZisska.Schauer&Co.に出品する

その出品に盗難の疑いがあると待ったをかけたのがHorstとWildingである

実にドラマチックな展開なのだが、NHKで放送されたドキュメンタリーは随分と実際の物事の動きが違うのだ、演出なのか意図的なものかあのドキュメンタリーは時系列がねじれている

まるで、図書館館長のデ・カーロが偽書の捏造を行ったように見えるように編集してある

今までの流れを見ると分かるが、デ・カーロはガリレオのフェイクを売却して、そのカネで政治家に取り入り、名誉顧問からジロラミーニ図書館の館長という立場を得ているのだ

Horstがちゃんと資料を採取しての分析をしていれば後に起こる悲劇は防げていたとも言える

しかも、2012年のフェイク発表も実はジロラミーニ図書館の現状を知ったTomaso Montanariが地元メディアに訴えた事でデ・カーロの悪事が露見した事がきっかけであり、Horstはその尻に乗っかっただけなのである

めちゃくちゃHorstに厳しいと思うかもしれないが、彼は長年に渡り古美術の大家として振る舞ってきたクセにこの体たらくな上に、ドキュメンタリーで名誉回復を狙う性根にムカついたのだ、もちろんデ・カーロも許さない

今回、ブログを書いた理由がNHKのドキュメンタリーの内容に怒ったものなのと、かなりの文章量になる為

大量の古書を盗み出したマリオ・マッシモ・デ・カーロによる悪事はこれからが本番なのだが次に回したい