糠床ブログ

不定期

エマヌエルの剣 追記

 ノコギリエイの吻は武器にならないんですか?

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それはほんとうですか?

気になったので調べてみました。

 

 ノコギリエイの吻はナマズの髭のように電気の流れを感じる器官で砂の中を動くゴカイや甲殻類、魚などの生体電流を感知して、吻をスコップのように使い掘り出して食べるというのが従来の学説でした。

ノコギリザメはこの内容で間違いないと思うのですが2012年に出た下記の論文

 

The function of the sawfish's saw - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/.../S09609822120008... 

 

こちらの論文にある実験で、ノコギリエイが泳ぐ魚の生体電流(実験では餌の魚は死んでいるので水中に電流を流して再現した)に反応して魚を吻で殴りつけ狩りをする事が観察されました。(中には真っ二つになった例もありました)

なんだ、武器になってるじゃん!嘘つきめ!

そう、生きる上では武器にもなるようです、生きていれば。

 

Evolutionary origins and development of saw-teeth on the sawfish and sawshark rostrum (Elasmobranchii; Chondrichthyes)

 rsos.royalsocietypublishing.org/content/2/9/150189

 

こちらの2015年に出た論文はノコギリエイの吻や、ノコギリの歯、口内歯の発生やそのメカニズムについて書かれた論文です。

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ノコギリエイ成体の吻部分 X線写真

上のX線写真で白くなっている、これは軟骨組織に石灰化、エナメル化が起きていることの証左でもあります。

 

 硬いんじゃないか!テキトーこきやがって!

生きていれば、再生するので強度を保てます。ただし、軟骨なので、そのペースは非常に遅いようです。

(同じく軟骨で出来たカジキの剣の部分の再生速度は哺乳類の骨の10分の1という記録があります:関係ないですがカジキの剣は強度が高く武器に使われています)

石灰分とエナメル分で補強されているとは言え、その強度はやはり不十分、ノコギリエイの鋸歯は簡単に抜けたり折れたりすると上記の論文でも触れられています。

(大型のサメの背骨でも包丁でガシガシ削れるほど脆いです)

X線写真でも鋸歯の先端が透けているのが分かると思います。エナメルの層が薄く再生されていないことを意味しています。

そのためノコギリエイは自慢の鋸で網などを破ることは出来ず、漁具で簡単に捕まる為に絶滅の危機に瀕しているのが現状です。

 

絶滅危惧ⅠB 種(EN、近い将来絶滅の恐れがある種)指定

 前回ノコギリエイの吻には魅力があると触れたのですが、現在でもそれは続いており人気のあるトロフィーであり、オーストラリアでは取引が禁止されています。

 

結論:生きているノコギリエイ自身はそれを武器にすることは出来るが、それを取り外して作った武器が棍棒や鉄製の剣と戦えるとは考えにくい。

  Youtubeなどで試し切りをしている趣味人がいないか探したのですが、ありませんでした。もし、見掛けた人がいたら教えてください。

 

 

 

 

エマヌエルの剣 珍しい生物由来の剣身

ツイッターで連投するのもアレなのでブログにでも置いておこうというソレ

 

 

 

エマヌエルの剣はバイエルン選定公、マクシミリアン2世エマヌエルの所持していた両手剣です。(全体図はエマヌエルの剣でググると出ます)

上の画像はアップですがこの剣が金属製では無いのが分かると思います。

ジャンルで言うとsawfish rostrum sword(ノコギリエイの吻製の剣)となり

その名前の通りノコギリエイという魚の伸びた吻を武器に転用したモンハンライクな品です。

 

 

サイズもモンハンです。(モンハン的には太刀扱いになりそうですが)

 ノコギリエイは非常に大型になり、この冗談みたいなサイズの剣がいくつも存在しています。


上:ドレスデン武器博物館 蔵

下:英国 チリンガム城 蔵

他にも、モスクワ ダーウィン博物館、故宮博物館、個人のコレクターなどでも所蔵が確認されています。

たくさん作られているのだから、さぞ強いんだ! そうか!傷が治りにくいんだ!と立ち上がったフランベルジュクラスタの皆さん落ち着いて

古い記録では中東で使われていたそうです ``儀仗``として

上に挙げた写真からも分かりますが、これらを実際に武器として振り回せそうな人はベルセルクとかにしか出てきません。

片手剣サイズのものも存在するのですが

19世紀製 詳細不明  長さ約90センチ

これらは捕鯨漁者などが、小遣い稼ぎに作っていた手芸品で、実用の武器ではなくやはり壁飾り用のものでした

作り方も乾燥した吻にナイフの柄を指し込み、金具で留めたものでブンブン振り回せそうにはありません。(エマヌエルの剣にも大きな飾り金具が根元部分に存在しているのが分かります)

 メラネシア地域でもノコギリエイ(もしくはノコギリザメ)の吻を利用した武器は確認されるのですが、強度に問題がある(サメやエイは軟骨魚類なので硬骨を持たない)のでやはり戦闘用ではなく儀式用だったと思われます。

戦闘用ではバヌアツのサメの歯剣などがあります。

しかし、この見るからに痛そうで、不気味な見た目には強い威圧効果があったと思われます。だからこそ、世界の権力者達はその見た目を重用し儀仗や壁飾りに求めたのではないでしょうか。 

この不思議な魅力に溢れたエマヌエルの剣の話は、このニュース記事で締めたいと思います。

ノコギリエイアゴ武装した男を逮捕 オーストラリア 

http://www.abc.net.au/news/2012-10-16/police-arrest-man-armed-with-sawfish/4315462

 

 参考にしたサイト

EthnograhpicArms&Armour   Sawfish sword

http://www.vikingsword.com/vb/showthread.php?t=1005