X(旧Twitter)でまとめきれないのでここに書く第四弾
カニ味がする羊は北海道にもいない
第2クールもはじまり、遂にイヅツミが加わる
そんなイヅツミが舌鼓を打ったのがバロメッツ、野菜なのか動物なのか分からないが味はカニという不思議な生物
ゲームにあんまり出てこない(ぷよぷよには居た)し、なんでカニの味なのか
知りたくないだろうか?
※バロメッツが植物みたいに生えてくる羊みたいな伝説上の生物という点は既に御存知とした上で話を進めていきます
有難い事にこの生き物についての専門書が実は和訳されて存在している
博品社から出ている その名も『スキタイの子羊』
ヘンリー・リー、ベルトルト・ラウファー著 尾形希和子、武田雅哉 訳
実はこの本、著者は2人いるのだが共著ではない
The vegetable lamb of Tartary : a curious fable of cotton plant
というヘンリー・リーが書いた本と
The story of the Pinna and the Syrian lamb
というベルトルト・ラウファーが学術誌 Journal of American Folklore
に上げた論文を一つの本にまとめたものである
ヘンリー・リーは19世紀イギリスの動物学者で、彼がバロメッツの正体とその歴史について記したのが前述の本であり
ベルトルト・ラウファーは20世紀アメリカの人類学者であり後述した論文はバロメッツ東洋起源説を解説したものである
バロメッツ解説に於いて、木綿を知らなかった西洋人が植物からウールが採れると勘違いして生まれた説をみるが
これはヘンリー・リーがその著作で展開したものでなぜ、そんなことをしたかと言うと彼は有名なUMAデバンカーだった
そしてなぜ数あるUMAの中でバロメッツが標的にされたかと言うと
バロメッツブームは16~17世紀ヨーロッパで起きており、今まで語られるだけの寓話的存在であったバロメッツだが
そこに中国製のシダの根を加工した偽バロメッツが現れその真偽について学会で激論が繰り広げられる事態に至っていた過去があったからである
この偽バロメッツの素材になったシダが現地語でCau-tich
学名Cibotium barometz(タカワラビ)である
そして、ヘンリー・リーの著作にある西欧人の木綿勘違い説は間違っていて
バロメッツの話そのものが東洋起源であり、貿易と共に中東、西欧へと流布した説話であると解説したのがベルトルト・ラウファーなのである
カニ味の起源
そしてヘンリーの著作の中で引用されたある部分
ジギスムント・フォン・ベルシュタインが記した『モスクワ事情』という本であり彼が父親がタタール王国への外交官であったデメトリアス・ダニエーロヴィチという男から聞いた話としてバロメッツが登場し、その特徴の中に肉のかわりにカニの肉に似た物質があり、という部分から
この記述からあくまで肉質がカニの肉のようだ、がカニ味へと転じたと思われる
ちなみにヘンリーの著作では、シダの根は食用になり、ワックス状でジャガイモみたいな味がすると記されている
追記:スキタイの羊の呼び名であるバロメッツ、この『モスクワ事情』内で地元での名称として記された Borametz の記述が元になっている
貝から生まれる鳥はカニの味がする
バロメッツがカニの味説、もう少し冒険を続けてみよう
ヘンリーの著作の中で、バロメッツと同じような勘違いの例としてバーナクルが挙げられている
12~17世紀末スコットランド西諸島では営巣地が見つからないガン(北極圏で営巣していた)は卵ではなく貝から変じる、または貝の中で雛を育てるのだと信じられていた
その名前がバーナクル
中英語「berrnekke」「bernake」を語源とし、意味はフジツボ
今もBarnacle gooseというガンと、Goose barnacleという有茎フジツボに伝説の痕跡を残している
民話の中で語られる内に尾ひれがつき、バーナクルは木から果実のように育ち海に落ちて鳥になるという話まで出てきたのだった
そしてこの貝から生じる鳥の話をバロメッツの類型としてヘンリーは著書で取り上げたのである
貝の方のバーナクル、有茎フジツボとあるが日本でいうカメノテに近く、カメノテは貝のような固着動物だが立派な甲殻類でありその味はカニやエビに似ている
ちなみにこのGoose barnacle、スペインでは高級食材で1ポンドあたり100ドルを超えることもあるという
ユーラシアをめぐった羊の冒険
ヘンリーの著作を通して読むことで、バロメッツとバーナクルを似たような生き物とすること
バーナクルの貝側は実は甲殻類で食べるとエビやカニっぽい味がするという事実を踏まえることで
バロメッツはカニのような味がするという解釈を引き出せると思う
九井先生はそこまで調べてやってそうである
ネットのきまぐれから続けてぬるいバロメッツ解説をみせられてブチギレて作ったので詳しく知りたい人は最初に上げた『スキタイの子羊』を読んでね