糠床ブログ

不定期

スキタイの子羊をめぐる冒険

 X(旧Twitter)でまとめきれないのでここに書く第四弾

 

カニ味がする羊は北海道にもいない

 

もはや説明不要の大ヒットファンタジー漫画であるダンジョン飯

第2クールもはじまり、遂にイヅツミが加わる

そんなイヅツミが舌鼓を打ったのがバロメッツ、野菜なのか動物なのか分からないが味はカニという不思議な生物

ゲームにあんまり出てこない(ぷよぷよには居た)し、なんでカニの味なのか

知りたくないだろうか?

 

※バロメッツが植物みたいに生えてくる羊みたいな伝説上の生物という点は既に御存知とした上で話を進めていきます

 

有難い事にこの生き物についての専門書が実は和訳されて存在している

 

博品社から出ている その名も『スキタイの子羊

ヘンリー・リー、ベルトルト・ラウファー著 尾形希和子、武田雅哉

実はこの本、著者は2人いるのだが共著ではない

 

The vegetable lamb of Tartary : a curious fable of cotton plant

というヘンリー・リーが書いた本と

 

The story of the Pinna and the Syrian lamb

というベルトルト・ラウファーが学術誌 Journal of American Folklore

に上げた論文を一つの本にまとめたものである

 

ヘンリー・リーは19世紀イギリスの動物学者で、彼がバロメッツの正体とその歴史について記したのが前述の本であり

ベルトルト・ラウファーは20世紀アメリカの人類学者であり後述した論文はバロメッツ東洋起源説を解説したものである

 

バロメッツ解説に於いて、木綿を知らなかった西洋人が植物からウールが採れると勘違いして生まれた説をみるが

これはヘンリー・リーがその著作で展開したものでなぜ、そんなことをしたかと言うと彼は有名なUMAデバンカーだった

そしてなぜ数あるUMAの中でバロメッツが標的にされたかと言うと

バロメッツブームは16~17世紀ヨーロッパで起きており、今まで語られるだけの寓話的存在であったバロメッツだが

そこに中国製のシダの根を加工した偽バロメッツが現れその真偽について学会で激論が繰り広げられる事態に至っていた過去があったからである

この偽バロメッツの素材になったシダが現地語でCau-tich

 学名Cibotium barometz(タカワラビ)である

中国製シダのバロメッツ、地元では褐色の犬と呼ばれていた

そして、ヘンリー・リーの著作にある西欧人の木綿勘違い説は間違っていて

バロメッツの話そのものが東洋起源であり、貿易と共に中東、西欧へと流布した説話であると解説したのがベルトルト・ラウファーなのである

 

カニ味の起源

そしてヘンリーの著作の中で引用されたある部分

 

ジギスムント・フォン・ベルシュタインが記した『モスクワ事情』という本であり彼が父親がタタール王国への外交官であったデメトリアス・ダニエーロヴィチという男から聞いた話としてバロメッツが登場し、その特徴の中に肉のかわりにカニの肉に似た物質がありという部分から

この記述からあくまで肉質がカニの肉のようだ、がカニ味へと転じたと思われる

ちなみにヘンリーの著作では、シダの根は食用になり、ワックス状でジャガイモみたいな味がすると記されている

 

追記:スキタイの羊の呼び名であるバロメッツ、この『モスクワ事情』内で地元での名称として記された Borametz の記述が元になっている

 

貝から生まれる鳥はカニの味がする

バロメッツがカニの味説、もう少し冒険を続けてみよう

ヘンリーの著作の中で、バロメッツと同じような勘違いの例としてバーナクルが挙げられている

12~17世紀末スコットランド西諸島では営巣地が見つからないガン(北極圏で営巣していた)は卵ではなく貝から変じる、または貝の中で雛を育てるのだと信じられていた

その名前がバーナクル

中英語「berrnekke」「bernake」を語源とし、意味はフジツボ

今もBarnacle gooseというガンと、Goose barnacleという有茎フジツボに伝説の痕跡を残している

民話の中で語られる内に尾ひれがつき、バーナクルは木から果実のように育ち海に落ちて鳥になるという話まで出てきたのだった

 

バーナクルの木

そしてこの貝から生じる鳥の話をバロメッツの類型としてヘンリーは著書で取り上げたのである

貝の方のバーナクル、有茎フジツボとあるが日本でいうカメノテに近く、カメノテは貝のような固着動物だが立派な甲殻類でありその味はカニやエビに似ている

ちなみにこのGoose barnacle、スペインでは高級食材で1ポンドあたり100ドルを超えることもあるという

www.youtube.com

 

ユーラシアをめぐった羊の冒険

ヘンリーの著作を通して読むことで、バロメッツとバーナクルを似たような生き物とすること

バーナクルの貝側は実は甲殻類で食べるとエビやカニっぽい味がするという事実を踏まえることで

バロメッツはカニのような味がするという解釈を引き出せると思う

九井先生はそこまで調べてやってそうである

 

ネットのきまぐれから続けてぬるいバロメッツ解説をみせられてブチギレて作ったので詳しく知りたい人は最初に上げた『スキタイの子羊』を読んでね

 

 

切り裂きジャックとブドウとキュウリ

 Twitterでまとめきれないのでここに書く第三弾

 

 時は1888年、イギリスはロンドンにあるホワイトチャペル、ここまで書けば出てくるのは切り裂きジャックしかいない

 フロム・ヘルという切り裂きジャックを題材にした映画で切り裂きジャックが被害者をブドウで釣るシーンがあるのだが

 これはdouble eventと呼ばれるJack the Ripperを名乗る葉書が投函された二件の殺人で、被害者と誰かが食料品店でブドウを買ったという話から着想を得たもので

 当時、新鮮な果物は裕福でなければ口にできなくなっていた情勢と、それがホワイトチャペルに住む貧民にはとても強い誘惑だったであろう事は想像に易く、切り裂きジャックがどういう人間か想像させるよい演出だと思う

 

 では、なぜ19世紀のイギリスでは果物が高級になったのか?

 これは産業革命による影響で、農地がことごとく工場やその関連施設へと置き換わっていき、優先度から果樹などが切り倒されていった結果

 安価に入手できていた季節の果物は流通量が減少し価格が高騰したのである

 19世紀ロンドンの各労働階級の週ごとの家計簿を比較した研究があり、果実の消費は記録されているがかなり少なく、その中身も主にジャムやドライフルーツだと考えられている

 果物の輸入自体は中世からはじまっており、干しブドウ、ナツメヤシ、干しイチジク、オレンジ、レモン等は流通量を増やしながら今に至っている

 

 産業革命は工場という場を生み出すことで、物理的な果実の供給量の減少と、産業と経済を変容させ果物の真空時代を産んだのである

 だが全く口にできなかったか、と言うとそういう訳ではなく郊外から汽車によって季節の生鮮食品が入ってくれば価格は下落し、労働者でも口にできるが

 通年で購入できるのは富裕層のみだったのである、労働者でも余裕のある家庭でなければ野菜すら口にできていなかった

 

 通年で買えるのか?と言うと買えるのである、そしてここで登場するのがキュウリである

 先ほど、季節になれば郊外から入ると言ったが、19世紀ロンドンの生鮮食品の価格変動はすさまじく、その筆頭がキュウリなのである

 1821年のコベナント・ガーデン市場での最低額と最高額の差を出した記録によると

ターニップ18倍、レタス7倍、ニンジン6倍、そしてキュウリは21倍である

 

 先日、スーパーで見たらキュウリ1本38円だったので単純に21倍すると798円となる

 なぜキュウリなのか、最近だと栄養がないとか口悪く言われているキュウリだが、これほど人々を夢中にした野菜はないと思う

 古くは古代エジプトではヘビウリと呼ばれるウリが盛んに栽培され饗し、紀元前30年ごろにはローマ皇帝ティベリウスが移動式の温室で冬にキュウリを育てており

 紀元前から人類はこの瑞々しい野菜に夢中だったのだ

 そして、ローマに続いてパクスを敷いたイギリスもキュウリに夢中になった

 だが、ブリタニアがキュウリにたどり着くまでの道もまた長いものなのだ

 チューリップ、パイナップル、キュウリ

 最早、切り裂きジャックどころの話ではないのだが、この3つとこの順番が大事なのである

 17世紀末のオランダのチューリップバブルに狂奔したオランダ人園芸家によって生まれた技術が温室で

 1513年にスペインに持ち込まれたパイナップルが南米植民地の富と支配の象徴として広まり

王侯貴族の間で自分の饗宴にパイナップルを出すことがステータスとなり、その栽培に血道を上げるようになった

 薪で温めた空気を送り続けて育てたらしく、まさに王侯貴族の道楽だった

   18世紀後半、ジョージ3世のウィンザー王室庭園には、パイナップルの温室であるパイナリー、ブドウの温室であるヴァイナリー、オレンジの温室であるオランジェリーが作られたが、まだ王族の為のものであり、彼らの食卓を賑わせる為のものだった

    それが変わったのが19世紀のイギリスで発明されたパイナップル・ピットと呼ばれる馬糞の発酵による熱で温度を保つ温室で、寒冷地でも安定して南国の作物が育てられる環境が生まれた

 ちなみに、今でも当時のパイナップル・ピットで作られた温室パイナップルは存在し1玉が140万円するそうである

 そして温室の技術は1851年の万博での水晶宮へと繋がり、このノウハウから富裕層向けの温室が生まれ普及し、そこでこぞって栽培されたものがキュウリであった

 当時、キュウリのサンドイッチは宮廷でのパイナップルと同じものだったのである

 イギリスのアフターヌーンティーで今でも出されるサンドイッチがキューカンバーサンドイッチなのはその名残なのである

 

 ちなみに、現在のイギリスには30セント・メリー・アクスという高層ビルがあってあだ名にガーキン(ピクルスに使うキュウリ)、クリスタル・ファルス(クリスタル・パレスのもじり)というものがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニメ史上最も安いロボット(900円)

Youtubeで12月3日から配信が開始されたロボットアニメ、『OBSOLETE

ボトムズが三度の飯と同じぐらい好きな自分にはクリティカルヒットだったのだが

設定が1話だけだと分かりにくいのと、何故アニメ史上最安値のロボットなのか

基礎のキぐらいを解説したいと思う

 

2014年に飛来した宇宙人『ペドラー(行商人)』、彼らは人類に対して交易のみを要求してきた

その内容は石灰岩1000㎏に対して彼らの技術で作られた物を交換するというもの

彼らとの交易によって現れたのはエグゾフレームと呼ばれる意識制御型の二足歩行ロボットだった

 

なぜ石灰岩1000kgなのか

日本での価格においても石灰岩1000㎏の価格は約900円ほど、遠い宇宙から来て要求するには随分と控え目に思える

石灰岩とはつまり、カルシウム(Ca)を50%以上含む堆積岩である

地球ではありふれた物質であるCaだが、宇宙で探すとなると大変な物質で太陽大気からでは10の-1乗という比率になる、惑星で探そうとしてもガス惑星や火星のような水のない地球型惑星では惑星が誕生してしばらくするとCaは宇宙空間へと飛散してしまう

地球のように大量の水、海がある惑星でないとまとまった量が存在しない物質なのだ

もし、ペドラーが人類に似た炭素ベースの生物ならば骨格の形成や神経伝達、筋肉の収縮などに欠かせない物質だと考えることができる

どうして交易品がエグゾフレームなのか

これは非常にシンプルな答えである、この便利なロボットを与えれば、交易相手が必死になって石灰岩を集めてくれるし、何らかの理由で大規模な採掘が制限されても小規模な交易相手は渡したエグゾフレームを使って働きアリのように交易を続けてくれるのだ

 

そしてペドラーの想定内と思われる形で人類世界は動きだしていく

 

2015年、エグゾフレームは発展途上国において急速に広がりはじめ

先進国は自国産業の保護を目的としたエグゾフレームの輸入・使用を制限するザンクト・ガレン協定(多分 東スイスにある都市名)を締結

一方で非加盟国では盛んな利用が進められ、軍事利用も___

というのが、1話視聴以前にある世界の流れである

1話は時系列的にはエグゾフレームによる軍拡が広がり、大国もその流れに逆らえなくなった2023年からはじまり、1話へと続く軍事利用とその広がりを2話以降のエピソードで後追いしていく形になっている

 

タイトルであるOBSOLETEは時代遅れ、と言うような意味で、エグゾフレームによって既存の経済や価値観が破壊されていく世界の物語がこれからどのように描かれるのか楽しみである

 

  

 OBSOLETE 公式サイト

https://project-obsolete.com/

 

 

 

 

遠い未来、宇宙の何処かの話

Obsidianが開発したRPG、The Outer world(アウターワールドはフランス製のADVなのだがこの名称は日本だけである)を購入してクリアしたので感想を

まぁ、クセとバグのあるゲームには定評のあるチームの作品であり、今作も中々に厳しめのバグが存在していた(パッチ1.2が配布され解消された)

すごく雑に説明するとボダランみたいな見た目のFallout(InterPlay製)である

戦闘の調整は大味、アイテムの種類も少ない、スキンや衣装のガチャもないオールドスクールなゲームである

ただ、最近のRPGの流れに一石を投じる一作だと思う

 

最近のRPGにあるシステム要素と言えばオープンワールド、たくさんのアイテム、素材回収と作成、エンドコンテンツ・・・

実の所、これらの要素はスペック向上によるシンプルな拡大理論の産物と言えなくもない

これらの要素を入れればそれに比例してプレイ時間は延長していく(無視して遊ぶ人もいると思うが)

ゲーム好きのアニメ監督、押井守は著書『注文の多い傭兵たち』にてRPGとはシステムであると語っている

本文がかなり長いので意訳で申し訳ないが、RPG=システムであり、システムとはゲーム内のレベルアップ、新しい装備、それを試せる敵のサイクルであり超人願望の充足だと、GTAのようなゲームがシステムを拡張していったRPGだと言えると思う、もっと言えばFPSだってシステム型RPGとして捉える事ができる

そして、物語とシステムの相性は悪いとも

物語上における動機とプレイヤーの動機のアンビバレンツが起きる

RPGで、旅の目的など気にせず敵を狩り、アイテムを漁る内に自分が何をするのか忘れてしまうというのはよくある事だと思う

ダイアログを見れば、次の目的は分かるのだがそれは自分とは乖離していて、ゲームを進める為の要素でしかなくなっていて

あと少しでクリアなんだけどそのまま放置してしまった、という体験をした人も多少は居るのではないだろうか

これが、物語とシステムの乖離によるものだと押井守は分析している

乖離の差が小さい時、すなわちゲーム開始から序盤におけるRPGの面白さを、押井守ドラクエで例えて どうのつるぎの頃、と表現している

ただ、この本が書かれたのは90年代初頭であり、これには回答としてバイオショックが挙げられる、ゲームでしか出来ない素晴らしい物語体験を生み出し、GTAと同じく多くのゲームに影響を与えた作品である

(この本が出た2000年初頭、ゲームから離れていた押井守がFallout4にハマって連載記事を書くのだから世の中は分からない)

スペック向上により、かつては困難だった他ジャンル要素のミキシングのような作品を生み出す事が可能になった

あくまで個人の考えだが、システムと物語の噛み合わなさを更に分解していくと時間こそが最大の敵なのではないかと感じられる

長時間 遊べるように作るのと、物語を感じられるように作ると言う部分が乖離しているのではないだろうか

時間による被害を受けるものとして記憶、ひいては感動だ

どんなに素晴らしい物語であっても時間による分断には逆らう事はできない

会話であっても、テンポが少しズレただけで受け取る感情が変わってしまうのは

誰でも体験するものだと思う

120分の名作映画を1時間ずつに分けて1週間の間隔を空けて見れば全く感動しなくはないが体験としては鈍ったものになるだろう

 

受け手側が時間を管理できる芸術媒体となると、書物ぐらいだろうか

ひどく話が逸れたが、ここまでの文章もThe Outer Worldの評価を理解してもらうのに必要だったのだ

 

あくまで個人の感想だが、よく出来た小説みたいに期待しながらページをめくるような楽しさがあった、システムが物語を邪魔しないように注意している印象を受けた、アイテム数が少ないのも多分、ゲームデザインと作品世界の設定を重視してのものではないだろうか

(同じ効果のアイテムが各企業ごとに存在し、防具のデザインも同じで企業のイメージカラーの差でしかない)

どの人物も味付けと表現がよく、世界観が理解できていくのと同時に移動範囲が広がり、出てくる敵も登場人物もクセが強くなってくる

プレイヤーがゲームを進めるのに合わせて、物語が複雑さを増していく

ただ、一般的な物語の大枠が複雑になるのではなく、出てくる人間達の背景や立場を含めたバックストーリーの量が多くなるという意味での複雑さである

仲間になるキャラクターもストーリーが進むと情報量が増えて、最初の印象とは違った人物像を植え付けられていると思う、理解が進みディティールが深くなるというゲームでは難しかったアプローチに挑んでいる

序盤ではよくあるパターンの人物に見えたキャラクターが、実はトンでもない奴だと分かったり、トンでもない奴に思えていた人物がとても高潔だったりする世界なのだ

それらが挿入されるムービーや、強制イベントではなく、会話の中や訪れた場所で体験の形で与えられる

(このゲームにもムービーシーンはあるがあくまでプレイ画面内で再現しにくいものの代替手段であり、演出としては控え目なものである)

プレイヤーと物語を乖離させるのではなく、不変の視点で与えられ続ける物語世界としてのRPG、純粋なRPGシステムでありながら物語との両立を目指した野心作であり真摯な回答だと感じた

既存の作品とは違う設計思想の下に作られながら、長らく望まれ続けたRPGに向かう第一歩、バイオショックGTAみたいに歴史に大きく名は残さないかもしれないが振り返った時に始点のひとつとして数えられるであろう作品である

ただ、そこまで注意して作られているからこそ、続きものの第一巻を読み終えたような気分になり、もう少しこの世界を体験したいと思った

そう思う人が少なくないようで、DLCの開発が決定しており、物語は延長する

 

そして何よりObsidianの姿勢と生み出したデザイン思想がRPGというジャンルに新しい考え方を広げてくれる事を願う

 

 

 

 

 

 

 

 

マリオ・マッシモ・デ・カーロという男  その2

NYの古書商と美術史家の大家にニセモノを掴ませて大金を得たデ・カーロ

そのカネでイタリアの政治家MarcelloDell'Utri(ベルルスコーニの管財人、マフィアを政権に引き込んだ張本人)に取り入り古書がたんまりの図書館の館長に就任し、自主的ワゴンセールで大量の古書をゲット!が大体のあらすじ

 さらに近くの修道院、Montecassio修道院フィレンツェバチカンの図書館からも貴重な古書を盗み出していた

世界有数の古書を保管するパドヴァ大学も何度もデジタル保存のための貸し出しを要求されていたが、怪しんで拒否していた(エライ)

デ・カーロの恐ろしい所は、『星界の報告』の偽造はスタートであり、ジロラミーニ図書館からの収奪も飛躍の為の一歩だと言う事である

彼は奪った古書の内、価値のあるものオークショニアへ持ち込み、そうでないものは材料として使い高額の付く古書のフェイクを作る事が目的だったのだ

ガリレオのフェイクのように、また売るのか?いや違う、売るのだが、今度は本物を売るのだ

その手口は、まずイタリア文化省名誉顧問・ジロラミーニ図書館館長の地位で狙う古書のある施設を訪れて資料の閲覧もしくは貸し出しを願いでる、そして偽物とすり替えるというものであった

就任から1年余りなのに、イタリア中を荒らしまくっていたのだ信じられないスピードである

彼の犯行の供述を聞いた世界中の古書商や博物館、図書館、修道院など古書を保管していた施設は大パニックである、自分たちが保管する本物が偽物にすり替えられていたかもしれないと分かり、確認作業が行われたハズである

昨年、バチカンの図書館で盗まれていたコロンブスの手紙が回収されたというニュースがあり、匿名でのすり替えの告発があり、NYの古書商から120万ドルでそれを買った亡くなった個人コレクターから返却されたそうである

正直、被害額が240~300万ユーロ、とイタリアでは発表されているが、実際には氷山の一角であろうと思われる、何故ならデ・カーロは2003年からフェイク制作を、2006年から学者として世界中のイベントや研究会などにも参加していたのだ

彼は最新の研究や報告をフェイク作成に活かしていたのである

デ・カーロは大学を中退しているのだが、ブエノスアイレスにある私的機関にガリレオの銅板画を寄付することで名誉教授職を得ていた

これだけの事をやったデ・カーロだが、逮捕されたが裁判の結果は自宅での禁固7年というものであり

自宅軟禁中の2016年に万引きで捕まっていたり、先に述べたNHKのドキュメンタリーでもニッコニコでインタビューに答えている

実は今もFBIと協力して、偽物とすり替えた本物を探したいなどと司法取引を持ち掛けてたり、星界の報告の偽造を暴いたWildingを堂々と脅迫するなど、全く反省していない

彼のバックにある、世にいうブラックマーケットと呼ばれるような盗品や偽造品を取り扱うマーケットの存在や、当時首相であったベルルスコーニと仲がよかったマフィアとの関係も深い、と言われている

なぜマリオ・マッシモ・デ・カーロだけアルファベット表記じゃないのか察して欲しい

そして、デ・カーロはインタビューで『本の価値は、内容であり、その思考はフェイクではない』と言うような自己弁護を言っているのだが

甘ったれたインテリ崩れのマフィアの犬がおこがましい、言わせてもらえれば所詮は可否をつける教師が居なければ自分の価値を証明できない学生止まりなのだ

Horstの手口を知った上で、彼が検査しない部分は作りが甘くなっていた、結果としてHorstは騙せたがWildingはダメだったという事実がそれを裏付けている

ただ、5年という期間はあまりにも長すぎた、デ・カーロは十分に力を付け、欲ボケした古書商と美術史家を焼くだけだった炎はヨーロッパ中を焼いた

目に見えない炎は今も燃え続けているかもしれない

2015年のYork Antiquarian Book seminar(世界最古の古書籍団体による大会)では、デ・カーロによる偽書の見分け方のレクチャーや、注意すべき書籍の特徴などのセミナーが行われ

ILAB(国際古書籍商連盟)によるBlackMuseum(盗難品の目録)のデータベース作成と共有が掲げられていたのだが、これは実行には移っていない

最後にデ・カーロの言葉を一つ

 “I want to do for books what he did for checks,”

私は彼が小切手でやった事を本でやりたかった

 これは映画『Catch me if you can』の実在するモデル、カール・フランク・アバグネイルJr.のように自分もなりたかったと言うようなもので

フェイク売ってクソ儲けて有名になりたかったわ~俺もな~と言うようなナメた内容で単にムカついたので載せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリオ・マッシモ・デ・カーロという男  その1

マリオ・マッシモ・デ・カーロ、この名前で検索しても日本語ではこの男の犯した罪はほぼ出てこない

2007年、NYの大手古書商MartayanLanが50万ドルで購入した本がドイツの美術史家 Horst Breadekamp率いる学術チームに真贋鑑定を依頼した

その本はSidereusNuncius(星界からの報告)、ガリレオ・ガリレイが月と木星を観察して天動説を確信した彼が書き表した最初の本で歴史的重要さ、本の構成の美しさから世界でもトップクラスの高額古書である

現在は100冊ほどが残るだけであり、その多くは著名な図書館のバックヤードで眠っている、しかも買い上げた本はガリレオ直筆の水彩画による月の挿絵がある世界に二つとない代物で世に出れば1000万ドルはくだらない

鑑定チームの出した結論は本物

ただ世紀の大発見の後は不気味な静けさが5年続くことになる

2011年、ジョージア州立大学の歴史家Nick WildingがHorstにメールを送る、星界からの報告は偽物だと 

2012年、ページをちぎっての資料分析の結果、紙は20世紀製だと判明した

古書商が買った本はアルゼンチンで見つかったガリレオパトロン貴族の私設図書館の蔵書だという触れ込みだった、持ち込んだ人間の一人が冒頭で出したマリオ・マッシモ・デ・カーロである

この男は2011年4月にイタリア文化省特別顧問、同年6月にはナポリ最古の図書館ジロラミーニ図書館の館長となっていた、自分が館長になると5人のキュレーターに命じ書物のラベルや貸出票を剥がし本を1階の広間に固めさせた

そしてワゴン車で数千冊もの古書を持ち出したそのうちの400冊強をドイツのオークショニアZisska.Schauer&Co.に出品する

その出品に盗難の疑いがあると待ったをかけたのがHorstとWildingである

実にドラマチックな展開なのだが、NHKで放送されたドキュメンタリーは随分と実際の物事の動きが違うのだ、演出なのか意図的なものかあのドキュメンタリーは時系列がねじれている

まるで、図書館館長のデ・カーロが偽書の捏造を行ったように見えるように編集してある

今までの流れを見ると分かるが、デ・カーロはガリレオのフェイクを売却して、そのカネで政治家に取り入り、名誉顧問からジロラミーニ図書館の館長という立場を得ているのだ

Horstがちゃんと資料を採取しての分析をしていれば後に起こる悲劇は防げていたとも言える

しかも、2012年のフェイク発表も実はジロラミーニ図書館の現状を知ったTomaso Montanariが地元メディアに訴えた事でデ・カーロの悪事が露見した事がきっかけであり、Horstはその尻に乗っかっただけなのである

めちゃくちゃHorstに厳しいと思うかもしれないが、彼は長年に渡り古美術の大家として振る舞ってきたクセにこの体たらくな上に、ドキュメンタリーで名誉回復を狙う性根にムカついたのだ、もちろんデ・カーロも許さない

今回、ブログを書いた理由がNHKのドキュメンタリーの内容に怒ったものなのと、かなりの文章量になる為

大量の古書を盗み出したマリオ・マッシモ・デ・カーロによる悪事はこれからが本番なのだが次に回したい

 

 

 

 

 

 

 

続・懐中電灯で照らされて目を覚ます

(注意:ゲームのネタバレを含む)

今週の木曜までEpicGamesがRemedy Entertainmentの傑作アクションゲームAlaneWakeの続編『AlanWake's American Nightmare』を無料配布している

元来はXBLAというXbox360で配信専用タイトルとして開発された経緯があり

ゲームをしばらく遊べば分かるのだがDLCではなく単独作品、続編と言うには随分と低カロリーな作りである

アークザラッドみたいだ、配信専用ソフトであったので容量・規模ともに前作より控え目なのである

今作の舞台はアリゾナ州の片隅ナイトスプリングス、前作ラスト付近にチラリと現れた自身の邪悪な分身ミスタースクラッチによってアランはここへと飛ばされる所からはじまる

ストーリーは短く、前作のような物語性は薄い、当時、期待して遊んだ自分は金返せ!とまではいかないが、これでAlanWakeという作品が終わってしまう事が勿体ないと思った

完全に蛇足に思えるAmerican Nightmareだが、その内容が面白い考察を与えてくれる

まず、タイトルであるAlanWake's American Nightmare、前作はAlanWakeで所有格語尾である『's』が付いている

前作からの続編であれば、AlanWake American Nightmareになりそうだが、この所有格は作品に対して付けられているのだ、アランは売れっ子作家で言わば、作品の面白さの保証としてその名を冠せられている訳である(スティーブン・キングの~みたいな)

そしてそういう事をする作品というのは面白くない事が多い、プレイすれば分かるのだがストーリー展開もなかなかに酷い、褒められる脚本ではないだろう

率直に言えばあらゆる面が前作以下である、遊べない訳ではないのだがAlanWakeの新作、前作の物語の続きを知りたい気持ちに動かされている面が多分にある

ゲームを最後まで遊べば、アランが迎える物語の結末を見ることができる、邪悪なミスタースクラッチは消滅し、妻アリスとの感動の再会、言葉より雄弁な口づけ、二人の心境を代弁するような夜明け______

まぁ、ベタな終わり方である、ぶっちゃけ打ち切りエンドみたいだ

ちょっと思いつくままに、問題点を挙げると

闇に囚われた人間と言うには無理のある無茶苦茶な敵、突然脈絡もなく現れるやたらセクシーな女性NPC達、原稿を集めるとアンロックされる武器ロッカー、何度も補充されるアイテム、あるまじき時間ループ構造によるステージの使いまわし、ミスタースクラッチとの直接対峙なしの決着

等々、いくつも浮かんでくる、書き出してると腹が立ってきた

こんなクォリティのゲーム出すなんて、どうなんだ!脚本は誰だ!

そう、脚本家は誰なのか

このゲーム自体がアランの書いたディパーチャー(ゲーム内でアランが執筆した小説であり、AlanWakeというゲーム)に連なるものではない、もっと言えば脚本家はアランではない

このAlanWake's American Nightmareを執筆したのはミスタースクラッチだと考えられる

今作で拾う原稿は罫線が引かれており、多分ノートに書かれているのだ、アランは作品を作る時にタイプライターを用いる、タイプライターは専用の紙でなければ破れてしまう

ゲームの冒頭でアランが創作していたロッジがタールの沼に沈んでいくのだが、これはアランに創作させないと言う事と、タイプライターの消失を意味する

ミスタースクラッチがアランに代わり執筆した悪夢の世界、それがAlanWake's American Nightmareというゲームなのだ

創作の主導権をミスタースクラッチに奪われたという事はアランは敗北したのか?と言うと、違うと思う、ミスタースクラッチは書いていく中で、現実との整合性があり歪みや澱みがなく変化を起こせる物語を書けなかった

ミスタースクラッチ自身に書かせる、それがアランが彼を倒すために選んだ手段なのではないだろうかと考えている

現に自分の作りだした世界でありながら、ミスタースクラッチは安っぽい悪党にしかなれなかった

この歪な作品は、アランがまだ戦いの中にいるという事を伝えるものだったのではないかと、そして戦いはアランが優位である事も伝えているのだ、完全な勝利と帰還はまだだが、そう遠くない

 

Remedyの新作であるControlのDLCにAWEというものがあり、タイトルがAlanWakeのパッケージと酷似しており、AWの部分はAlanWakeではないかとファンサイトで話題になっていた

今度こそ、アランは帰ってくるのかもしれない